ある道のり6~お人の心~

自分とは何か。
人生思い返せば、さまざまなお人にお会いしたこと。
そしていろんな体験をさせられたこと。
そのご縁というものと体験というものから、
自分がどのように思ったかということ。

それらが自分を作ったのでしょうか。

人にはさまざまな人生があります。
小学生3年から5年までの間に、自分を鍛えた
強烈ですが、また人の優しい心に触れる思い出があります。

名古屋のメイン道路が東西に走る広小路通りです。
そこに路面電車の市電が走ります。
昔の話です。

離婚はしないが、子供達の養育費は支払うという民事裁判の
決定を受けて、父は週二回500円ずつ計1000円を
支払うことに同意しました。
そのころの父は某タクシー会社の労働組合委員長を辞した後、
タクシー業界紙の発行販売をしていました。

四人の子供の養育費を20歳までとは悲しすぎます。
大変だったと思います。
それでその徴収係がこちらに回ってきました。
姉は女の子、妹は小さすぎ。兄は忙しい。
三年生の男の子が適役でした。

「取立て」 嫌な仕事でした。
小学三年生の取立て役です。
その日は気が重い。

東新町から電車に乗り大門で降ります。
片道13円の切符が、往復だと25円。
一円のお徳です。

だいたい3回から5回に一度は500円もらえました。
居留守をつかっていることがわかっているのに、
待たなければならないこともあり、結果がわかるだけに悲しいことです。
だいたい人間でしたら、ウソか誠か言っている方の
お顔をみていればわかります。
おかげで人の気持ちに敏感な人間になれました。

500円もらった夜は、みんなが嬉しそうです。
家族の結束が生まれました。
でもしょげて戻るとわかるのか、みんなが
声を掛けません。
やさしい兄弟達。

25円の市電の往復切符は緑色です。
真ん中に切れ目があって、行きにその半分を
車掌さんに渡します。
その切符以外は何も持っていないので、大事に
無くさないようにしています。
そう思えば思うほど無くしてしまいます。

もらえない日の帰り、切符を無くします。
東新町で車掌さんに「切符無くしました・・・。」

「そうかボク、今度でいいよ。」

今度っていつなんだろか。

あるときは終点の覚王山まで眠ってしまいました。
車掌さんに起こされて、泣きながら「眠っちゃった・・・。」
「どこまで行くの。?」「東新町です。」「この電車、新栄町までもどるから
乗って行っていいよ。」
またある時は覚王山から歩いて家まで戻ったこともありました。

お人の優しさに比べ、なんと真逆の父親か。
その落差を肌で感じました。

つらい思いでですが、お人の優しさを感じられたのは、父親のおかげでした。