令和4年ですから二年前。
深いご縁の肉親の全てが肉体を脱ぎました。
最後は関東立川に住まいする当時71歳の妹。
両親、兄弟姉妹の5人はすべて他界しています。
一番長く生かされたのが兄の76歳。
その同じ年齢に今年令和6年になる自分です。
この頃、幼い頃のいろんなことが思い出として
蘇ってまいります。
小学三年生になった夏休みに森本家(今は養子で山田です)の
実家がある三重県名賀郡青山町羽根で一か月を過ごす予定の
旅が与えられました。
「まあちゃんいいか、近鉄に乗って中川という駅で
乗り換えて、阿呆(あお)で降りるんだよ。
降りたらおじさんが待っててくれるから」
そう母に言われて家を出ます。
すべて母が新調してくださったいでたちでです。
真っ白なズック靴。
茶色の半ズボン。
そしてシャツは黄色の赤銅鈴之助のたくさんのひと模様の
ほこらしい姿でさっそうと出かけます。
赤銅鈴之助はその頃流行っていた剣士の漫画です。
母は父の実家にみすぼらしい子どものすがたを
見せたくはなかったんでしょう。
随分無理したと思います。
電車は得意。
市電で東新町から笹島駅へ。
歩いて名古屋駅の近鉄です。
「なかがわなかがわ」と忘れないように呪文。
中川に着きました。
ついたら優しい駅員さんが
「ぼく どこ行くの?」
「あおです」
「だったらあそこで待ってて、次の電車が
来たら乗ってね、トンネルをいくつもくぐったところが
あおだからね」
昭和30年代のやさしき駅員さん。
ドキドキです。
今度は「あおあお」を念じて電車は進みます。
トンネルがたくさんです。
そしてほんとうにたくさんトンネルを電車はくぐります。
到着です。
「あおーあおー」
あほあほっていうふうに聞こえてしまって。
駅の名前を見たら「阿保」。
なんだか降りる人がみんな「あほ」みたいと
笑ってしまいました。
おじさんがホームで待っていてくださって
とても安心しました。
おじさんは近鉄の職員さんで今日は非番です。
そこから15分くらいで実家です。
ところがそこにはとても怖いおばあさんがいました。
おばあちゃんのお名前はくにさん。
まあちゃんの地獄と天国の一か月が始まります。
ちょっと事情があってその家は姓が「喜多」。
森本の本家はそこから車で5分くらいのところです。
そんな事情も何も知らず田舎での生活にワクワクのまあちゃん。
いとこののぶちゃんとその妹、そしてそのご両親と
怖いおばあちゃんの五人家族。
まあちゃんのお客部屋は二階です。
吊り会談で二階に上がります。
夜は下の部屋に邪魔にならないように階段を
吊りあげてしまうんです。
だから一旦寝たら下には降りれません。
「夜中におしっこしたくなったら呼ぶんだよ」と
おばあちゃん。
いとこののぶちゃんは都会名古屋から来た
目新しい仲間が気に入ったのかすぐに
「川に釣りに行こう!!」とお誘い。
初めての釣り体験にワクワク。
それと怖いおばあちゃんから離れられます。
田舎では多くの村でそうだったのか、家の前に
生活用水として小さな小川が流れています。
もちろん側溝の中にです。
それも新鮮。
早速釣竿を二本かついでのぶちゃんは嬉しそう。
ほんのすぐそばの浅い川で白ハエ釣り。
のぶちゃんにエサの付け方を教わり、始まり。
ドキドキです。
すぐに魚がつれて嬉しい!!
ところが何時間か釣りをしているうちに急流に
竿がもっていかれ引き上げようとしましたが
どんどん下流に。。
「怒られる。。」怖いおばあちゃんの顔が浮かびます。
すっかりしょげて家へ。
「おばあちゃん、のぶちゃんの竿流しちゃった。
ごめんなさい」泣きながら謝ります。
「まぼ、手洗ってはよご飯食べさ!」
なお怖いです。
なんせ名古屋の家では叱られることはめったにありません。
食事が済んでお風呂。
「まぼ、はよ風呂入りさ!」とおばあちゃん。
お風呂に行きましたら五右衛門風呂。
入り方を教わります。
「うかんどる板をふみつけて、下にしずめながら
入るんだよ」
おそるおそる湯に入ります。
木で炊くお風呂です。おばあちゃんが炊いています。
「アツッ!!」
とても板を踏んで入る勇気はありません。
尚もおばあちゃん「はよ入りさ!」
こんな調子で「なんでも「はよ、はよ」って言われます。
こんなこと家では言われたこともない。
そんなはよはよ体験の旅の一日が終わって就寝。
ところがやっぱり夜中におしっこがしたくなります。
「おばあちゃんに叱られる・・どうしよう」
とても下に声を掛ける勇気は出ません。
それで前を流れる小さな生活用水がおしっこの音をかき消すだろうと
窓を開けて屋根の上に・・・。
成功。
朝そしらぬ顔をしてずるい勇気のない子供がおはようと言います。
すでに階段は降ろされていました。
つづく