致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 19 「虐待を受けている少年の悲痛な叫び」

西舘 好子 NPO法人日本ららばい協会理事長

 僕の声を聞いて
「おかあさん ぶってもけってもかまわないから 僕を嫌いにならないで。
 おかあさん おねがいだから僕の目をちゃんと見て。
 おかあさん お前を生まなければよかったなんて言わないで僕はちゃんと生きているんだから。おかあさん やさしくなくてもいいから、僕を触って、おかあさん 赤ちゃんのとき抱いてくれたように抱いて。おかあさん 僕の話にうなづいてくれないかなあ。
 つらい、悲しい、もうダメ、お母さんの言葉ってそれしかないの。赤い爪魔女みたい。
 ゴム手袋のお台所、お部屋のあちこちにある化粧品、僕の家のお母さんのにおい、僕の入れない世界で満ちている。おかあさん お母さんのにおいが欲しい、優しい懐かしいにおいが。
 おかあさん お願いだから手をつなごう、僕より先に歩いて行かないで。おかあさん お願いだから一緒に歌おう、カラオケ屋じゃないよお家でだよ。おかあさん 500円玉おいてくれるより、おにぎり一個の方がうれしいのに。
 おかあさん 笑わなくなったね、僕一日何度おかあさんが笑うかノートにつけているの」

 母親から虐待を受けている少年の悲痛な思いを綴った文章です。私が小さい頃にはなかったことですけど、親がわが子に暴力を振るい、時に死に至らしめてしまう事件が、近頃は日常茶飯事になりました。
 親の愛情というのは、子どもにとって絶対的なものでしょう。それがいま、根底から揺らぎ始めています。いまの親と言うのは、家庭で父親はどうあるべきか、母親の役割は何かということが分からなくなっている。父、母という言葉の重みがなくなって、家庭が喪失してしまっているんですね。特に、子育てに直接関わる母親の力が家庭から失われてしまったことが、こうした事件が頻発する根源じゃないかと思っています。

 母親の力が家庭から失われてしまったのは、戦後に核家族化が進んで世代間の交流がなくなり、家庭と言う場で代々伝えていかなければならない大切なことが、伝えられなくなってしまったことが大きいでしょうね。
 虐待を受けた子たちの施設に行くとよくわかるんですけど、いまの親は子供の抱き方も知らないの。まだ首も据わっていないうちから変な抱き方をされて、骨折してしまった子もいるんですよ。
 子育てって上の代から伝承されていくものだし、家庭は本来人間の基本を養う大切な教育の場だったと思うんです。でも残念ながら、いまはそれを担える家庭が少なくなってきているんじゃないんでしょうか。