ある道のり7~新聞配達のアルバイト~

中学生になりました。
小学校は学区の西の一番はずれ。
子供の足で20分かかります。
その反対に中学校は家の斜向かえ。
立ち木でできた塀の破れからもぐりこみますと、
1分かからず教室へ行けます。

ローリーの配達から少し上級の新聞配達に
アルバイとが代わりました。
M新聞店には自転車で通う必要があって、自転車は必須です。

でも新聞の配達は肩に担いで走ります。
任された地域の配達をいかに間違いなく
早く済ますか、それが目標です。
配達時間の短縮が喜びでした。
それでマラソンに強くもなりました。

集金も業務です。
今の大須商店街の東の大きな道路から
西側の運河までが担当です。

いろんな方々にお会いできました。
大人の人たちのいろんな性格を知りました。
大人物の方もみえました。
運河沿いのラーメン工場に集金に行きますと、
坊主頭のおじさんが「坊主これもってけ。!」と
言って、作ったインスタント生ラーメンを毎回くれました。
後に大きくなった「すがきや」さんの創業者さんでした。

とても印象的な出来事がありました。

朝刊配達の時のことです。
いつものように軽快にポストに入れたり、
木戸のところは隙間からストンと入れたり、
順調でした。
最後のお客様から一件前に料亭があります。

調子よくそのお店の木戸の隙間からストンと新聞を
入れました。
「シマッタ!!」店先に早くも水が打ってあって、
新聞が水にベッタリ。

最後の配達先を終えても気が重く、そのまま黙っていようか、
あやまろうか、迷いました。
こすい心はウソをつきました。
M新聞店に帰りご主人にこう言いました。
「何か一部足らなかったようですから、一件入れてきます。」
ご主人は毎回二度は枚数を確かめるのにと、不信そうです。
彼が一番嫌うことだからです。

料亭に戻り一面の右隅にこう書きました。
「あやまって水があるのに新聞を入れてしまいました。
もう一部入れさせてもらいます。すみませんでした。」

これでことは終わったので安心です。

学校へ行ってから、
その日の夕刊配達で再びM新聞店です。

着くとご主人から声がかかりました。
「まあちゃん、ちょっと話がある。・・・」
ああバレバレ・・・、叱られる・・・・と。

「あのね、料亭から電話があってね、朝刊ね。
濡れたから何とかしたでしょ。」  ほらきたと思いました。

下を向いてごめんなさい、ウソついてと心で詫びました。
「お客様がね配達の子を連れて一緒に来てって言うんだよ、
顔が見たいって言うんだよ。」

それでご主人と一緒に料亭へ。
店主が現れました。
ニコニコして「君か!そうか!みんな感心したよ。がんばれよ。!」と
これご褒美とご祝儀袋をくれました。

ウソとご褒美。
思っても見ない展開。

中には青い500円札。
新聞配達月給1500円の頃です。
なんという世界。

M新聞のご主人は「まあちゃん、ウソはいかんけど
ああいうことは店の誉れだよ。ありがとな。」

昭和の素敵な思い出です。