森 信三 運命をひらく 365の金言 57 「心の置土産 ②」

心の置土産 ②

 今諸君らの生活が、真に深く、かつ内面的に大きかったならば、諸君らの精神は、必ずや後に来る人々のために、一種の置土産となることでしょう。さらにまた、私共のように教職にある者としては、その精神は、仮にその学校を去る時がありましても、もしその生活が真実であったならば、かならずや後に多少の余韻が残るようでなくてはなりますまい。

 しかしながら、われわれ人間として最大の置土産は、何と言っても、この世を去った後に残る置土産だということを忘れてはならぬでしょう。実際私の考えでは、人間というものは、この点に対して心の眼が開けてこない限り、真実の生活は始まらぬと思うのです。

 われわれが生涯をかけて、真に道を求めようとする態度は、実にこの一点に対して、心の眼が開きかけてからのことだと言ってもよいでしょう。と申すのも、われわれ人間の生活は、生きている間は、厳密には真の献身とは言いかねるとも言えましょう。それというのも、われわれは、少なくともこの肉体がある間は、これを養うために、多くの方々のお世話にならなければなりません。