森信三先生の言葉 6~人生を深く生きるということは・・

 人生を深く生きるということは、
自分の悩みや苦しみの意味を深く
噛みしめることによって、かような
苦しみは、必ずしも自分一人だけのもの
ではなくて、多くの人々がひとしく
悩み苦しみつつあるのだ、ということが
解るようになることではないかと
思うのです。

これに反して人生を浅く生きるとは、
自分の苦しみや悩みを、ただ自分一人だけが
悩んでいるもののように考えて、これを
非常に仰山なことのように思い、そこからして
ついに人を憎んだり怨んだりして、あげくの果ては、
自暴自棄にも陥るわけです。これはちょうど、
あの河の水が浅瀬において波立ち騒ぐにも
似ているともいえましょう。

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 真に偉大なる人というものは、つねに自分も
又人生の苦悩の大海の裡に浮沈している
凡夫の一人にすぎないという自覚に
立っているのです。このように真に偉大な人
というものは、人生をあらゆる角度から眺めて、
自分もそのうちの一人に過ぎないと見ていますから、
その人の語る言葉は、いろいろな立場において
悩んでいる人、苦しんでいる人々に対して、
それらの人々の心の慰めとなり、その導きの
光となるのです。
 かくしてあらゆる人間の苦しみと悩みとに
同感しうる人は、それらの人々にとっては、
その苦しみと悩みを救う力となり光となる
わけです。そしてかような教えは、卑しくも
聖賢哲人といわれるほどの人々のいずれも
深く体験せられたことでしょうが、とくに
親鸞上人においては、ひとしおその趣の
深いものがあるようです。