随想 伊路波村から76~死なないでいる 020826

四日市での「読書会」終了後のお別れ。

O先生は車が見えなくなるまで見送ってくださった。

自分は種田山頭火のことばを思い出していた。

俳人山頭火は松山の友人大山ご夫妻の家へ
いつもふらっと顔をだした。

旅にでるとたえず行方しれず。
たまに旅先からはがきをくれた山頭火。

忘れたころにまたふらっと大山邸に顔をだす
山頭火であった。連絡は勿論なしに。

そんな山頭火が現れると、大山さんは貧しい中でも
できるだけ、山頭火の好物の豆腐と酒を用意した。

大山さんは不思議におもう山頭火のくせにきずく。
それは別れの日、旅立つ山頭火が、見送る大山ご夫妻を
いつでも一度も振り返ろうとはしないことだった。
いくどもそんなことがあった。

ある日の別れの朝、大山さんは山頭火に尋ねた。

「山頭火さん、あなたはいつでも別れのとき
私たちのことを振り返ろうとしない。
また今度いつ会えるかわからないのに、
水臭いじゃないか。」

山頭火はこたえた。

「旅をしているといろんなことがあります。
ある晩、橋の下で寝たことがある。

その夜大水がでて寝ている間に流されてしまった。
必死で葦にしがみついていのちは助かった。
大山さんにも今日お別れしたら、
もう再び会えないかもしれない
とおもうと、悲しくて、振り返ることができんのです。」

人との出会いをこんなにも真剣に思う山頭火。
私たちは今別れたらもう二度と会えないかもしれないと
思って人に接しているだろうか。

しぐるるや

死なないでいる

手を振るOさんの暖かさに、山頭火をみた。