致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 2 「これぞ、新潟展」

内田 勝規 東急百貨店池袋店 販売推進部 催事部 催事企画担当
      エグゼクティブバイヤー 

 新潟の物産展を行う際に目をつけたのが、当時も幻の銘酒といわれた八海酒造の「八海山」です。僕はこのお酒をなんとか出品してもらおうと会社について詳しく調査をしたんですね。すると昔、業績が悪化し、金融関係からことごとくそっぽを向かれた時期のあることが分かりました。僕はこの時、誰が支援したのかを調べ、遂にその人物を突き止めました。そして彼に一緒に新潟までついてきてもらったです。

 会長の南雲和雄さんに会うと「あんたらの希望は何だ」と聞くから、僕は「八海山を三千本出してください」と言いました。これには向こうも一瞬息を呑んだんですが、分かったと約束してくれたんですよ。

 ところが帰り際に「内田さん、今度一人で鯉」と南雲さんに耳打ちされたので、その後、一人で行きましたらね。机をバーンッ!!とたたかれて「汚い手を使いやがって!お前は許せない。きょうは一日拘束だ、と言われたんです。しばらくすると「ところでおまえ、酒飲めるか」と聞かれたんですが、僕、まるで飲めないんですよ。でお酒を注いでくれたんですが、もう頭痛くてわんわんしてて、嫌だなあと思っていたら、向こうの方で奥さんが泣いているんです。なんで泣いているんかな、と思いながら南雲さんのほうをふっと見たら、その顔色が、真っ黒だったことに気が付いたんです。・・・肝臓がんだったんですよ。

 でも南雲さんはその肝臓がんをおして、僕と一晩中飲んでくれて、酒造りに懸けてきた思いを一所懸命に語り続けてくれたんですね。。奥は胸が痛んでしょうがなかったけれど、会社に帰ってきて社員から「新潟展のポスターどうしましょう?」と聞かれたときに、これ一本でいく、と八海山の一升瓶一本で、ポスターを作ったんですよ。「これぞ、新潟展」というコピーをつけて。そのポスターが出来上がって南雲さんのところに持って行ったら、もう南雲さん、泣き出して「母ちゃん、母ちゃん!内田が冥途の土産を持ってきたぞ」と言って喜んでくれたんですね。

 それで新潟展が無事成功して、お礼を言わなきゃと思っていた矢先に、南雲さん、亡くなってしまったんですね。お葬式に行ったら、駅にすさまじい人だかりができていて、結局、お焼香もできずじまい。遠くから手を合わせて帰ったんですが、気持ちはモヤモヤしたままでした。

 それで何か月かたって、もう一回お線香だけ上げに行こうと思って、行ったんですよ。そしたら奥さんが覚えていてくれて、「さあ上がってって」と言うから、部屋に入らせてもらいました。すると、仏壇の横に「これぞ、新潟展」のポスターが貼ってあったんです。その時にね、この時にね・・・、僕がなんでそこまで取引先の為に、銀行の面倒を見たりするんだ、と思われるかもしれませんが、作り手の気持ち、ちゃんと理解しながら物を紹介していかなかったら、お客さんに伝わるわけねえだろう、って。