森 信三 運命をひらく 365の金言 28 「順逆を越える」

順逆を越える

 人間は、この「暑い」「寒い」と言わなくなったら、そしてそれを貫いて行ったとしたら、やがては順逆を越える境地にも至ると言ってよいでしょう。ここに私が順逆というのは、ていねいに言えば、「順境逆境」ということです。
 ですから順逆を越えるとは、逆境に会ってもへこたれないということです。この境地にまで至らないで、ただ、「暑い」「寒い」と言わないだけでは、実はまだ痩我慢の域を脱しないとも言えましょう。

 もっとも人間というものは、最初は痩我慢から出発するほかないでしょうが、しかしいつまでも痩我慢の段階にとどまってはいけないのです。人間が真に順逆を越えるようになると、なんら痩我慢でなくて、「暑い」「寒い」などという言葉を言わなくなるものです。われわれもそこまで行かないといけないのです。

 総じて精神的な鍛練というものは、肉体的なものを足場にしてでないと、本当には入りにくいもんなのです。たとえば精神的な忍耐力は、肉体上の忍耐力を足場として、初めて真に身にくものです。さればこそ、寒暑を気にしないということが、やがて順境逆境が問題とならなくなるわけです。