森 信三 運命をひらく 365の金言 23 「志を実現するには 1」

志を実現するには 1

 人間は、一口に志を立てるといっても、
そこには色々と程度の差があります。
実さい人間の偉さというものは、その人が
如何なる志を立て、それを如何ほどまで
実現するかによって決まるともいえましょう。
否、さらに突きつめて申せば、そもそも
われわれ人間の志というものは、その人が
真にその心中に希うだけは、必ずや実現する
ものだともいえましょう。

即ち一人の人間が、真にその心中深く念じ
止まぬ事柄というものは、必ずや何時かは、
何らかの形で実現せられるものであります。
かように申せば、諸君らのうちには不思議に
思われる人があるかも知れません。
だが、志が実現せられないということは、
実はその志すところが、いまだに十分に深大で
ないからであります。例えば楠公の精神は、
公の歿後六百年にして、明治維新の大業となって
初めて実現せられたともいえましょう。

 あるいはまた石田梅岩先生の志のごときも、
諸君らも知るように、その生前においては
十分に実現せられたとはいえませんでしたが、
しかしその精神は歿後しだいにそのお弟子の
人々により継承せられて、明治維新以後
義務教育の実施によって、今や全国的規模に
よって生かされつつあるともいえましょう。
あるいはまた吉田松陰先生にしても、現在、
先生の書物の一言一句を読んで深く心を
動かされたとしたら、そこに先生の精神が
生きているというに、何の誤りがあるでしょう。