再録 致知出版社の「一日一話 読めば心が熱くなる・・」 その5~あずさからのメッセージ

「あずさからのメッセージ」

是松いづみ 福岡市立百道浜小学校特別支援学級教諭

 梓が生まれたのは平成六年のことです。
私たち夫婦はもともと障がい児施設でボランティアを
していたことから、わが子がダウン症であるという
現実もわりに早く受け止めることができました。

 迷ったのは上の二人の子たちにどう知らせるか
ということです。私は梓と息子、娘と四人で
お風呂に入りながら
「梓はダウン症で、これから先もずっと
自分の名前も書けないかも知れない」と
伝えました。息子は黙って梓の顔を
見つめていましたが、しばらくして
こんなことを言いました。

 さあ、何と言ったでしょう?
という私の質問に子供たちは
「僕が代わりに書いてあげる」
「私が教えてあげるから大丈夫」と口々に
答えます。この問いかけによって、一人ひとりの持つ
優しさがグッと引き出されるように感じます。
実際に息子が言ったのは次の言葉でした。
「こんなに可愛いっちゃもん。いてくれるだけで
いいやん。なんもできんでいい」

 この言葉を紹介した瞬間。子供たちの障がいに
対する認識が少し変化するように思います。
自分が何かをしてあげなくちゃ、と考えて
いたのが、いやここにいてくれるだけでいいのだと
価値観が揺さぶられるのでしょう。

 さて次は上の娘の話です。彼女が「将来はたくさんの
子どもが欲しい。もしかすると私も障がいのある子を
産むかもしれないね」と言ってきたことがありました。
私は「もしそうだとしたらどうする?」と尋ねました。

 ここで再び子どもたちに質問です。さて娘は何と
答えたでしょう・「どうしよう・・・私に育てられるかなぁ。
お母さん助けてね」子どもたちの不安はどれも深刻です。
しかし当の娘が言ったのは思いも掛けない言葉でした。
「そうだとしたら面白いね。だっていろいろな
子どもがいたほうが楽しいから」

 子どもたちは一瞬「えっ?」と息を呑むような
表情を見せます。そうか、障がい児って面白いんだ。
いままでマイナスにばっかり捉えていたものを
プラスの存在として見られるようになるのです。

 逆に私自身が子どもたちから教わることも
たくさんあります。授業の中で、梓が成長して
いくことに伴う「親としての喜びと不安」には
どんなものがあるかを挙げてもらうくだりがあります。
黒板を右左半分に分けて線を引き、左半分に喜びを、
右半分に不安に思われることを書き出していきます。
中学生になれば勉強が分からなくなって
困るのではないか。やんちゃな子たちから
いじめられるのではないか・・・。
将来に対する不安が次々と挙げられる中こんなことを
口にした子がいました。

 「先生、真ん中の線はいらないんじゃないの?」
理由を尋ねると「だって勉強が分からなくても周りの人に
教えてもらい分かるようになればそれが喜びになる。
意地悪をされても、その人の優しい面に触れれば
喜びに変わるから」。

 これまで二つの感情を分けて考えていたことは
果たしてよかったのだろうかと自分自身の教育観を
大きく揺さぶられた出来事でした。